コロニアルタイム 大滝瓶太

短篇4作収録
400詰原稿用紙換算約170枚

価格600円
 

 数学と音楽と人工知能、イデアと妄想のスピードスター大滝瓶太の思念は自身の速度の限界をこえてそれらの上を滑空していく。そのとき生じる突風は、SFや文学や哲学のかけらを金属製の鱗粉のようにあたりに撒き散らす。
 コロニアルタイム──時への植民、謎めいた時間、語られることのない時間、それをいま語ろう。もう近いのだから。

 
   

収録作品紹介

騎士たちの可能なすべての沈黙

 任意の位置にチェスのナイトを置いて、すべてのマスを一度だけ通 って盤面を旅する。それがナイトツアーという数学のふるい問題であることをしったのはずっとあとになってのことで、その名前を父から教えてもらったわけではなかった。名づける名づけないに関わらずその問題はかならず存在していたし、もっといえばぼくらがナイトに触れなくてもナイトは盤面 を旅していて、それはひとしれずはじまり、あらかじめ終わっていた。

 異貌の数学者岡崎忠邦、父と子をつなぐチェス、数学のなかのとてつもない孤独。
 収録された4篇は時間と空間を扱った連作としても読める。この冒頭の作品の舞台は20世紀中頃から後期にかけてである。


ソナタ・ルナティカOp.69

「あなたの音楽からは永遠のさびしさをかんじる」
「さびしさ?」
 カニーノはききかえした。
「そう、さびしさ」ポンセはつづけた。「ピアノ独奏曲にしろ、あなたの楽曲のハーモニーは各声部の無理解によってかたちづくられています。そしてそれは素朴な構成であるからこそひとつの音楽としてかろうじて成り立っているのです」

 世にも退屈な楽曲「ソナタ・ルナティカ Op.69」を巡る逸話あるいは非逸話。舞台となる時代は20世紀前半。


演算信仰

それはあらゆる他者の、あらゆる場所の、あらゆる時代の思考を重ね合わせるという行為に一致した。鮫島はオラクル理論について完全に理解するに至った。すべての可能な過去と未来が目の前に広がり、七月の終わり、書類をすべて読み解いた。

 2020年、東京オリンピック開会式で自爆テロが発生する。死傷者は1000人をこえた。犯人は鮫島康人。鮫島をその行為に導いたオラクル理論とは何か。21世紀初頭の数学的エピソード。


コロニアルタイム

 この時間がとおい未来に占領されたと昨夜からつけっぱなしのテレビがいったかたわらで、きのう、河原でひろった左手はまだふかいねむりから目覚めていなかった。


 世界は不可知の集合体である。若い女「わたし」の口から語られる愛玩動物のような「左手」、謎めいた「セルビア」、時間と意味はどこに向かうのか。最後の一行ははたして何を示すのか。


大滝瓶太プロフィール

「大滝瓶太」はフリーライターである「まちゃひこ」が主宰する創作プロジェクトであり、創作や海外文学の翻訳をブログや電子書籍で公開している。
主宰者を含めた詳細はブログ「カプリスのかたちをしたアラベスク」参照。

カプリスのかたちをしたアラベスク
: http://www.waka-macha.com/entry/2012/05/24/044344

メール: machahiko1205@gmail.com

Twitter: @macha_hiko


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